主 寝 坂 峠


 「主と寝たかよ、主と寝たかよ、主寝坂峠。笹に何かの、笹に何かの、あとがある。」地元で歌われている主寝坂音頭の一節である。
 江戸時代の初め頃、秋田の矢島城が戦に破れ、そこのお姫様が若武者ひとりだけを共に最上に落ちのびてきた。及位を過ぎ、峠を越えようとしたとき、二人はとつぜんの雷雨に見舞われ、ホオの大木の陰に隠れ、近くの洞穴のなかで一夜を過ごした。このとき、雷鳴の怖さに若武者の力強い腕に抱かれた姫は、主従の一線を越えてしまった。その後、誰が言うともなくこの峠を主寝坂峠と呼ぶようになったという。
 そのものズバリでえげつないという人もいるかも知れないが、なんともロマンを感じる地名縁起である。いったい峠の笹にどんな跡が残っているのだろう?
 主寝坂トンネルの手前の駐車帯に車をデポして走り始める。と言っても旧道の入口から雪が積もっているので、最初から最後まで雪中行軍となった。従って道の状態とか勾配は全くわからなかった。雪もカチカチになっているところとユルユルになっているところがあって、一歩一歩がクイズのようである。運悪くユルユルの雪の中に足を潜らせてしまうと、すごく損した気分になってしまう。
 峠は三叉路になっており、山頂のアンテナに向かう路が延びている。一面の銀世界である。さて、問題の笹は・・。周りが茶色に枯れ、小さな穴があいていた。何の変哲もないどこにでもある普通の笹なのだが、例の伝説を聞いてからきたので、なるほど、この穴がその跡なのか、と納得してしまった。ふっふっふっ、この程度の穴だったら俺の敵ではない。と思ってしまったのは不謹慎というものである。
 その後、デポ地に戻って帰ろうとしたとき、スタッドレスから普通タイヤにはき替えたばかりの私の車が、ハンドルの操作ミスから雪に突っ込んでしまい、脱出するのに延々一時間もかかってしまった。どうやら「若武者」の怒りをかってしまったようである。やはり他人の下半身の詮索はするべきではないようである。

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