甑 峠


 とにかくひどい路だった。約4年振りの担ぎ上げの峠だったが、見事にダウンしてしまった。
 車を奥羽本線の及位(のぞき)駅にデポして駅前から延びている林道をグイグイ走る。そして林道の終点から山道にはいる。最初はまだいい路だったが、そのうち急斜面の沢の上り下り、崖の直登、最後はつるつる滑る岩がむき出しになっている沢をずぶ濡れになってよじ登った。もはや自転車は単なる邪魔者と化し、ついに途中で放りなげ、空身で進む。そして峠に立ち、ヤレヤレと引き返したのだが、後から考えてみると、本当にそこが峠だったのかどうかは確信が持てない。確認するためにももう一度行こうとは思っているのだが、あの道をまた上るのかと思うとなかなか重い腰が上がらず、今日に至っている。

名前の由来: 山の形が、古代に穀物を煮炊きする時使われた土器、甑を伏せたのに似ているため、この名が付けられた。室町時代には修験の場として栄え、ふもとには幾つか坊があったと伝えられている。
 峰の東側には女小子鬼、西には男小子鬼の両峰が並び、女峰には赤穴、男峰には烏帽子岩と、陰陽二つの象徴が備わっており、修験者は27日間の断食の後、女峰に登り命綱の鎖を伝って赤穴まで降り、穴の奥に鎮座している観音様を拝んで位を授けられたという。 秘伝をのぞいて位に及ぶというこの故事にちなんで、ふもとの集落を及位と書いて「のぞき」と読ませるようになったという。
(「山形の峠」より)


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