子 持 峠


 奥さまと一緒に行く。大滝の集落の大きな栗の木の下に路上デポして走り出す。林道はのっけからバラスの多い細道だが、勾配が緩いのでそう走りにくいこともない。奥さまは今日で2回目の峠越えということで自信満々である。短い急坂があり、私がスリップして足を着くと、後ろから「どいて、どいて!」の元気な声と共に私の脇をすり抜けて行ってしまった。末恐ろしい体力である。
 高度が増すにつれて舗装されている箇所が多くなってくるが、だんだんと勾配はきつくなっていく。また、地図にはない林道が何本も分岐しているので迷いやすい。最初は元気だった奥さまもついにダウンして押している。少し先行していた私も付き合って押すことにした。
 二人でとりとめのない話しをしているうちに峠に着いた。林道終点のところから杭を乗り越えて進むと、鉄塔の真下に出る。そこから周りを見回すと、一箇所だけ藪が切れているところがある。そこが峠なのである。ここからは叶水の集落が一望できる。「初秋の山里」という感じでとてもよい。奥さまも肩で息をしながらにこにこしている。さあ下るぞ!とばかりに反対側の峠路を覗いてみると・・。なんと木の段の付いた山道が急斜面をかけおりていた。
 この峠を人間の顔にたとえると鼻そのものである。目からたらたらと上って、鼻の頭から口まで急斜面を下っていく、という感じなのである。地図で見てみるとたしかに峠の西側は林道が通っているが、東側は点線の山道になっている。古い地図だったので、きっと今では林道が通っているだろう、とたかをくくっていたのだが・・。
 恐る恐る奥さまの顔をうかがってみる。さすがに口には出さないが、「えっ、乗って下りられないの!」と顔に書いてある。しかし諦めはいいようで、「担いで下りるぞ」の声に「はい。」と元気よく答えてついてきた。重いマウンテンバイクを担いでよたよたと下りる様はとても危なっかしくてみていられなかったが、それでも無事に林道にたどり着き、鬱憤を晴らすかのようにぶっ飛ばして下って行った。

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