細 越


 湯殿山有料道路は自転車の通行は禁止されている。このことを承知の上で料金所のおじさんに「絶対乗らないから押して行かせてくれ。」と頼んでみたのだが、歩行も禁止されているとのこと。残された手はバス輪行しかない。と思っていると、バス時間まではまだ間があるから、そこの参道を歩いていきなさい。と、湯殿山ホテル脇の小道を教えてもらう。地図には載っていないこの参道を押し担ぎして、20分ほどで仙人沢祈祷所に着く。まだ朝早いせいもあるのだろうが、紅葉狩の車はパラパラとしかなかった。
 駐車場のトイレの脇から小道が延びている。これが旧六十里越街道の細越の路だ。路は最初凄まじいまでの急勾配で梵字川の岸辺まで下っている。片手で自転車をぶら下げ、片手で木や草を掴みながら慎重に下る。梵字川には木を三本束ねただけの簡単な橋が架かっていた。橋を渡り、川岸から離れるまで、またきつい道を押し上げるが、その後は峠近くまでずっと下っている。路はよく踏み固められていて歩き易く、迷うこともない。多分当時からのものであろう、石畳も所々残っている。さすがに何百年も前から生き残ってきた路である。通る人が激減した今でも獣路になる素振りも見せていない。
 紅葉は御谷地付近が一番美しかった。山全体が紅く染まっているのだが、その様が手前の谷地沼に写っていて、真っ青な秋空の下にあるもの全てを燃え上がらせているのだ。これから迎える雪の季節を思い合わせると、その対照は一層際立つ。紅葉は、山が一年かかってため上げたエネルギーを「死の冬」の前に瞬時に解き放つ儀式なのである。
 御谷地から少し下ると笹小屋跡に出る。昔の茶屋跡であろう。路はここを境にして上っている。ここからはそう時間もかからず、峠に着いた。
 峠は標高1211メートルの品倉山の鞍部を緩やかに乗っ越している。紅葉のトンネルと落ち葉の絨毯が、私を静かに歓迎してくれた。こんな感じの峠は本当に気持ちがいい。苦労してきたかいがあるというものだ。峠からほんの数メートル下ると、木の杭にマジックで書かれただけの峠の碑があり、湯殿山の石碑も二つあった。
 細越から田麦俣までは尾根道を下っていく。湯殿山側に比べて景色も非常によく、倒木を除いてほとんど乗って下れるのだ。予想外の素晴らしい路に喜びながら田麦俣へと下って行った。下りの途中に大堀、小堀の見事な切り通しがある。一見の価値ありである。

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