檜 原 峠


 綱木峠を下ったところにある綱木の集落は本当に「山の中」という感じの村である。会津街道の宿場として栄えたそうだが、今ではその面影はない。ここは平家の落人が檜原峠越えで入り、平重盛の家来梅津豊後、田中和泉守、今野隼人などが住み着いたと伝承されている。
 集落のはずれにある分岐点を左に折れ、百子沢林道を走る。路は最初杉林の中を通るのだが、これまた締まっていて走りやすいいい路であった。何度か山を巻いて高度を稼いで行くと、急に目の前が華やかになった。今年始めてみる紅葉だ。緑と茶色だけの世界を走ってきた私にとって、この赤と黄色のコントラストは疲れた身体を元気づけてくれた。本当にきれいだ。
 紅葉をゆっくり鑑賞しようと、のんびり押して歩くことにした。途中で山菜取りのおじさんと一緒になる。濃い眉毛と口の周りの髭がビートたけしにそっくりなこのおじさんは、昔東京でサラリーマン生活をしていたが、脱サラしてこの道に入ったという。「やっぱり自然が一番!東京は人の住むところじゃない!」とさんざん話しまくった後、「あっここだ、じゃあな、気をつけてな。」と、疾風の如く山を駆け下りていってしまった。もちろん道など無いところをである。遠野物語に出てくる山男というのは実はこういった人たちのことではないのかな。とふと思った。
 ほどなく峠についた。峠は綱木峠のときと同じく、山をぐるりと巻いている。山菜取りの車が数台見受けられるだけで後は静かなものである。ここから檜原湖が見えるかと期待していたが、残念ながら駄目だった。

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