極 楽 峠


 のどかな叶水の集落から勾配の緩い快適な舗装路を上っていく。極楽山の鞍部を通る峠なのでこの名前が付いたのであろうが、どの文献を調べてみてもこの山と峠については書かれていなかった。面白い名前なので、もう少し調べてみたい。
 峠はぐるっと山を巻いている。あまり高い山に囲まれていないこともあるが、見晴らしが良く、明るい感じがする。先ほど苦労して行った子持峠も見える。
 数分遅れて奥さまが元気よく上ってきた。開口一番「私やっと上り方がわかったの。今までついて行こう、ついて行こうと頑張っていたからすぐ疲れて押しちゃったけど、全然そんなこと気にしないで一番軽くしてゆっくりこげばすごい楽なんだね。」それが身体でわかったのなら立派なものである。
 少し休んでから下る。途中栗がたくさん落ちている場所があり、奥さまは自転車を放り投げて栗拾いに夢中になっている。「そんなの後にしろよ」の言葉には「だってただなのよ!」と、いつになく迫力ある答えが返ってきた。「ただ」という言葉につられて私も一緒になって拾い始める。それにしてもつい3ヶ月前まではギャルだったのにもう奥さま感覚が染みこんでいるようだ。頼もしい。
 子持峠の下りで拾った栗と合わせて、帰る頃にはざるいっぱいになり、奥さまは峠を二つ征した喜びより、ただで栗を手に入れた喜びで終始にこにこしていた。

後日談: 家に帰った後、買い物に出掛けた奥さまが情けない顔をして戻ってきた。「ねえ、拾った栗よりもっとコロコロしたのがスーパーで380円で売ってた。それもあっちのほうが量が多いの。」消え入りそうな声である。それでも実家の母親から「山栗はスーパーで売っているものよりも甘くてうまい。」と励まされ、気を取り直してその栗を実家に持って行ったのだが、家族から「料理して食べるほどのものじゃない。」といわれ、哀れにもその栗たちは闇に葬られてしまったそうである。合掌。


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